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馴れ初め編・後
後編です。
ちょっとだらだらと長くなってしまいました。

拍手[6回]


ジュードの様子がおかしい事に気付いたのはすぐだった。
ヘリオボーグで、大精霊だというミュゼが言っていたあの言葉。
『ミラが行方不明なの』
ルドガーとエル以外の仲間達が一斉に息を呑んだが、ジュードがそれ以上に動揺しているのがルドガーには分かった。
「ねえ、ミラって何?誰なの?」
ミュゼが空に消えていってすぐに疑問を口にしたエルに、エリーゼが笑いかけた。
「ミラは、マクスウェルなんですよ」
「マクスウェル・・・?」
「そ、ミラ・マクスウェル。精霊の主なんだよ。一年前、一緒に旅をしてた仲間なんだ」
「ふーん・・・」
首を傾げるエルにレイアが続き、エリーゼと笑い合う。それを、少し仲間外れにされたように感じたのかエルがルドガーの袖をつまんで、頬を膨らませた。
幼い仕草がルドガーにはとても微笑ましく見えて、思わず吹き出してしまった事をエルに怒られた記憶も新しい。
その時から、ジュードは様子がおかしかった。
ミュゼが飛び去った後も、苦しそうな顔で空を見つめていて。その様子を仲間達が心配そうに見やり、アルヴィンとローエンがジュードの肩を叩いて何かを言っていた。
何を言われたのか分からないが、ジュードはすぐに気を取り直したように二人に笑いかけていたが、ルドガーはすぐにその顔が、あの作り笑いだと分かった。
それからのジュードはやはり表面上では何も変わらないけど、ふとした時に考え込んでいる事が多くなったし、声をかけてもたまに気付いてくれない時すらあるようになった。
本当に、ミラ、がジュードにとって大事な人である事が分かって。
声をかけて気付いてくれない事なんてなかったのに。いつも、甘い琥珀色の瞳を向けて、名前を呼んでくれていたのに。
・・・笑いかけてくれていたのに。
なんだか、ジュードが目を向けてくれていないだけで、途端に自分の存在がちっぽけなものに思えてしまって。
ルドガーはショックを受けている自分に気付き、一体なんなんだと、またぶつけようがない感情を燻らせていた。

その日もクエストを仲間に手伝ってもらいながらこなしていき、帰り道でエルと夕飯について話していた。
今日は何がいいかなあ、と悩んでいるエルの答えを待ちながら、ルドガーは、ふとその横を歩くジュードに声をかけた。
「ジュード、今日何か食べたいものあるか?」
「え・・・?あ・・・な、なんでもいいよ?」
急に声をかけられたジュードは、びくりと肩を震わせ取り繕ったように笑う。その笑みにルドガーが少し困ったように眉を寄せると、ジュードは途端にはっとして顔を歪めた。
「ご、ごめん・・・!折角聞いてくれたのに・・・っ」
「いや・・・いいんだけど・・・」
「良くないよ!なんでもいいが一番困るなってパパ言ってたもん!だからちゃんと考えてこれが食べたいって言わなきゃダメなんだからね!」
一瞬気まずい空気が流れた二人の間に、エルがいつもの調子でジュードに絡みだす。
「ごめんね、エル・・・そうだよね。何がいいかな?」
「えっとねー、エルは・・・」
笑顔に戻ったジュードに内心ほっとしながら、ルドガーは今の内に済ませておこう、とGHSを取り出した。
「ジュード、今日の分の返済するから、少しの間エルを頼めるか?」
「大丈夫だよ」
「ついでに今日の夕飯のリクエストも考えておいてくれ」
「う、うん!」
笑いかけると、ジュードが嬉しそうに笑う。この顔、久しぶりに見たな、と思いながら二人の背中を見送っていると、レイアとエリーゼが合流していった。
少し変り種が好きなレイアのリクエストが通れば、皆また夕食の席で複雑な顔をするのだろう。
その様子を思い浮かべると自然に笑みが零れてくる。
(・・・さっさと、返済してしまおう・・・)
気を取り直してGHSに向かった時、不意に肩にずしりと重みを感じてルドガーはその原因へと目を向けた。
「俺はピーチパイがいいなあ」
「私はやはり身体に優しい和食がよろしいかと・・・」
「和食はともかく、ピーチパイはデザートだろ」
肩を組んできたアルヴィンと、柔和に微笑むローエンの姿があってルドガーはまた笑みを向けた。ピーチパイを否定されたアルヴィンは、図体に似合わず甘い物が好きらしく、食いたいんだからしょうがないと言って笑っている。
「・・・少し元気出てきたかねえ」
少しだけ遠くに見える少女達と不思議なぬいぐるみに一匹の猫、それと一人の少年の後姿に視線を向けアルヴィンは呟いた。それにローエンも頷く。
「そうですね・・・きっとルドガーさんの美味しい手料理でも食べれば、もっと元気になりますよ」
誰かと言われなくてもそれがジュードのことだと分かる。
ジュードの様子がおかしいと感づいていたのは、やはり自分だけではなかったらしい。こればかりはどうしようもないと分かっていながらも、ジュードとの付き合いの浅さを付き付けられたような気がして、表情が少し暗くなってしまう。
「・・・ミラって、ジュードにとって本当に大事な人なんだな」
二人の会話に耳を向けながら、ルドガーはここ最近ずっと胸につかえていた事を口に出した。
「そうだな・・・大事、だろうな」
「ミラさんはジュードさんにとって特別でしょうから」
「特別・・・」
ジュードの、特別だというミラ。
(俺は、ジュードのなんなんだろう・・・)
仲間、だろうか。好きだと、震える声で伝えてくれた時は、違ったかもしれない。
でも、今はジュードにとってルドガーはただの仲間、なのだろう。
そう思うと、心臓がずきりと痛んだ。
ただの仲間では、嫌だ、と心が叫んでいるのが分かった。
(ああ、気付いてしまった)
なかったことにしてくれていい、と言われた。でも、忘れることになんて出来るはずがない。
(俺はジュードの特別になりたいんだ)

夕食を食べ終えると、各々自由な時間に戻る。
今日は特別皆忙しい用で、ローエンはGHSで色々なところに連絡をして回っているし、アルヴィンやレイアも仕事に噛り付いている。エリーゼも休学している間に友達に置いていかれたくない、と勉強に励んでいた。
エルは昼間の疲れがたたってか、夕食を食べたらすぐに寝てしまった。
必然的にルドガーが洗い物をしていると、見落としていた食器を持ってジュードが横に並んだ。
「手伝うよ。いつもルドガー一人に任せちゃってごめんね。」
「これくらい別にいいって。皆忙しい中手伝ってくれてるんだし・・・ジュードも研究忙しいのに、いつもありがとな。」
想いを自覚した上に、久しぶりの近い距離に内心どきりとしながら笑いかける。ジュードも笑い返してくれて、ルドガーが洗った皿の水気を拭き始めた。
(・・・何を話そう・・・)
食器が擦れる音と、水音しか聞こえてこない空間にルドガーは内心冷や汗を垂らしていた。
想いを自覚する前はどんな顔でジュードに接していただろうか、どんな事を話していただろうか。考えても全く出て来ない。
何か何かと考えても、あの夜の、好きだから、と告げたジュードの顔しか浮かばなくて。
(まだジュードは、俺を好きでいてくれてるのか・・・?それとも、ミラの事を思いだして、もうそんな気持ちはなくなってるとか・・・?)
一度気になるとそればかりが気になってしまう。
普段、あまり二人きりになれない分、今、ここで聞いてしまってもいいだろうか。
「ルドガー・・・今日の夕食、ね」
口を開きかけては閉じ、開きかけては閉じ、と葛藤しているルドガーにジュードがぽつりと呟いた。
「・・・今日の夕食?何か嫌いなものあったか?」
今日の夕食は、和食だった。ローエンも和食がいいと言っていたし、何よりジュードに豆腐の味噌汁が食べたい、とはにかみながらリクエストされたので気合を入れて作った。自分がジュードにしてあげられる事など、今はこれくらいしかないのだ。
普段あまり和食は作らないからうまく出来たかと心配していたので、ジュードに夕食の話題を出されてやっぱり何か、と構えてしまう。
「あ、全然。そうじゃなくて・・・」
けれど、ジュードは慌てて首を振り、ふわりと笑った。
「すごく、美味しかったから・・・ありがとうって言いたくて」
それと、ご馳走様でした、と微笑まれルドガーはぶわっと一気に自分の顔に熱が篭るのが分かった。
こんな顔で、ずっとジュードは自分に接してきたというのに、何故何も思わなかったのか。
「ル、ルドガー?どうしたの?具合悪い?」
顔を真っ赤にして俯いてしまったルドガーを、ジュードは心配そうに覗きこんでくる。
その琥珀色と目が合った瞬間、勝手に口が開いていた。
「・・・ジュードは、まだ俺の事好き、か?」
「え・・・」
ジュードが目を見開いて固まった。みるみる青褪めていく顔に、やっぱり今更か、と自嘲する。
「ごめん・・・今更、ぶり返されても困るよな・・・」
笑いかけても、ジュードは唇を震わせたまま何も答えようとしない。
悪い事をしているな、と自覚はあった。でも、今更止まれなくて、せめて想いを伝える事だけは許してもらおう、とルドガーは続ける。
「本当に今更だって自分でも思う・・・でも、俺ジュードが好きなんだ」
青褪めた顔を見ていられなくて、ルドガーは再び顔を俯かせた。
「ジュードがミラ、を特別に想ってるのは知ってる。ただ、伝えておきたくて、俺も、ジュードの特別になりたくて・・・」
そこまで言って、ルドガーはシンクの水を出しっぱなしにしている事に気付いた。慌てて水を止めて手を拭くと、まだ固まっているジュードの髪をそっと撫でる。
最後だから、と自分に言い聞かせて、艶やかな黒髪の感触を掌に感じた。柔らかい感触に離れたくない衝動を感じながら手を離し、食器を持ったままのジュードの手から最後の一枚の食器を受け取り、片付ける。
「手伝ってくれて、ありがとな。今日の事は忘れてくれていいから。」
なかったことにしてくれ、とジュードが言った時も、ジュードはこんな思いをしながらあの言葉を言ったのだろうか。
あの告白の後も、ジュードは本当に何もなかったように、ルドガーに接してくれた。それがどんなに辛い事だったのか、今のルドガーになら分かる。
自分も同じ様に出来るだろうか。いつか、ミラと出会って微笑み合う二人を見て、笑えるだろうか。
ずき、とまた胸が痛んでルドガーは苦笑した。
笑わなければ、だめなのだ。ジュードの為に。
ジュードの笑顔が、ルドガーは何よりも好きだと思うから。
「明日も早いからジュードももう寝ろよ?じゃあ、おやすみ」
その横を通り過ぎようとした時、強く腕を掴まれて引きとめられる。
「・・・ジュード?」
「・・・・・・・・・ほん、とに・・・?」
ぎゅうっと手首を捕まれて、その細い手首がふるふると震えているのに気付いた。
困らせたいわけじゃないのに。笑っていてほしいのに。
申し訳なくて、自分自身が腹立たしくて、その腕を離そうとそっと手を重ねる。
「・・・ほんとに。ほんと、ごめんな・・・」
「な、んで、謝るの・・・っ?!」
「え・・・」
しかし、その掴んだ手は離れず、逆にもう一つの手で捕まれる。両方の手を強く握られてルドガーが動揺していると、俯いていたジュードがぐっと顔を上げてルドガーを真っ直ぐに見詰めた。
涙に濡れながら、それでも真っ直ぐに見上げて来る視線から、ルドガーはもう逃げる事が出来なかった。
「なんで謝るの・・・?好きって言ってくれたのは、嘘なの・・・?」
「嘘じゃない・・・っ」
「じゃあ、本当に僕の事、好きになってくれたの・・・?」
「・・・好きだよ。すごい、好きだよ。今更だって、分かってるけど・・・どうしても伝えたくて・・・」
ごめん、と続けようとしたが、続けられなかった。
ジュードがぼろぼろと涙を零して泣きじゃくり始めたからだ。
「ジュ、ジュード・・・っ?」
「う、れしくて・・・っ、夢、じゃないよ、ね・・・?」
うれしい、とルドガーの手を握り締めたまま大粒の涙を落とし続けるジュードに、ルドガーは胸が熱くなるのが分かった。
まだ、間に合ったのだろうか。届いたのだろうか。
泣いているジュードを抱き締めたくなって、衝動的にジュードを抱き締めてもジュードは嫌がったりしなかった。
「まだ、俺の事好きでいてくれたのか?」
「すき、だよ・・・ずっと、ルドガーがすきだよ・・・」
さっきと同じことをもう一度聞くと、今度はちゃんと返してくれた。手を握ってくれていた腕は今はルドガーの背中に回り、しっかりと抱き返してくれている。
細い身体を力いっぱい抱き締めると、なんで気付かないでいられたのか不思議なくらい、好きだという気持ちで満たされていく。
「・・・も、ルドガーに嫌われたかと思ってた・・・」
不意に耳元でそう言われ、ルドガーはぎょっとする。
「嫌うなんて、なんで?!」
ありえない、こんなに好きなのに、とルドガーが更にジュードを抱き締めると、ジュードはくすぐったそうに声を漏らした。
「最近、僕がルドガーに好きだって言った事、気にしてるの分かってたから・・・だからさっき、まだ好きなのかって聞かれたとき・・・迷惑なんだって言われると思った。やめてくれって、拒絶されたらって・・・怖くて・・・」
そう口に出すジュードに、たまらなく切なくなる。
そんな風に思わせたのは誰でもないルドガー自身で。先程のジュードの青褪めた顔を思い出し、ルドガーはジュードの肩に顔を埋めて、ごめんな、と小さく呟いた。ううん、とジュードがルドガーの髪に頬を寄せる。
「ミラが、特別なのは本当だよ。とても大事な人だから・・・でも、ルドガーも特別だよ。たぶん、初めて出会ったあの時から。・・・これって、一目惚れっていうのかな。」
優しく告げられた言葉に、ルドガーは更に自分の顔に熱が篭っていくのが分かって。しばらくジュードの肩に顔を埋めたまま顔を上げる事ができなくなってしまった。
エルがトイレに起き出してくるまで、二人はしばらく抱き合っていたまま動かなかった。



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